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第3章 ゼオライトの応用例から、内部被曝防止の可能性を考える
ゼオライトが放射性物質を吸着するメカニズム
ここで、ゼオライトが放射性物質をはじめとする有害物質を吸着するメカニズムについて説明しておきましょう。
ゼオライトは、ケイ素(Si)が酸素(O)を介して結合した籠のような基本骨格(一部アルミニウム)をしており、全体としてはマイナスの電荷を帯びています。そこで、そのマイナスとのバランスを取るために骨格構造の中に陽イオン(プラスの電荷を帯びた原子)を取り込んでいます。
上図の化学式(構造式)では陽イオンのナトリウムイオン(Na+)が構造の外側にあるように見えますが、実際にはゼオライトの籠の中にナトリウムイオンが入っている形となっています。
また、中に入る陽イオンはナトリウムイオンに限らず、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)など、電荷のバランスが取れる陽イオンであれば何でも入ることができます。
そのゼオライトの実際の骨格は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)が三次元的に組み合わさって形成されており、実際の見た目としては建築物の骨組みのように、内部に空洞(細孔)を持つ籠状の構造となります。
前ページの図は代表的なA型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライトの立体構造図です。後で紹介する出雲産のゼオライトはモルデナイト型に当たります。
ゼオライトが有害物質を効率よく吸着できる理由の第1はその籠状の骨格構造にあり、第2はそこに含まれる陽イオンの働きにあります。
ゼオライトの骨格構造が形作る空洞(細孔)の直径はケイ素と酸素のつながり方によって決まり、約0・4〜1・3ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)の範囲でさまざまなバリエーションがあります。これはさまざまな有害物質の分子1〜2個がようやく入る程度の大きさですが、この大きさこそがゼオライトの吸着力の重要なポイントとなっています。
多孔質のゼオライトはその表面積の大きさからもともと高い吸着力を持ちますが、そればかりでなく、細孔が分子1〜2個分の大きさであることにより、さらに高い吸着力を発揮するのです。というのも、気体や液体中の分子は、固体によって形作られた自らの大きさにちょうど合う空洞に収まろうとする性質があるからです。
加えて、ゼオライトの骨格構造に含まれる陽イオンの働きによって、有害な重金属や放射性物質を効率よく吸着することができます。
重金属や放射性物質の多くはプラスの電荷を帯びた陽イオンですから、そこにゼオライトの粒子が近づくと、マイナスに荷電した骨格構造に引き付けられることになります。そのとき、もともと骨格構造の中にあった陽イオンよりもマイナス電荷に捕らえられやすい物質であれば、もとの陽イオンは追い出されて後から来た重金属や放射性物質が細孔に収まるのです。
このように、陽イオン同士で中身が入れ替わることを「イオン交換」といいます。これはゼオライトの働きを理解する上で重要な言葉なので、できれば覚えておいてください。
一般的には電荷数が大きいほど、同じ電荷数なら原子番号が大きいほど、イオン交換によって吸着されやすいといわれます。それが重金属や放射性物質を吸着しやすいことに関係していると考えられます。
一方、体内においては、ゼオライトは消化管を通過しながら水や食物と一緒に侵入した有害重金属や放射性物質を吸着し、最終的に便と一緒に排出されます。
また、非常に小さな微粒子に加工されたゼオライトの場合は、腸壁から吸収されて細胞を守る細胞外液において有害重金属や放射性物質を吸着し、腎臓を経由して尿と一緒に体外へ出ていくという経路をとる可能性も示唆されています。
ゼオライトが重金属や放射性物質を吸着・排出できるのは、これらの特徴によるものであり、そのメカニズムについてはすでに国内外の数多くの論文で検証されてきています。