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第2章 被曝を防ぐために今、始められること
チェルノブイリ周辺では小児甲状腺ガンが増加
被曝線量が高くなると体への影響は増していき、特に一度にまとめて放射線を受けると急性障害を起こします。
たとえば、250ミリシーベルトを一度に受けると白血球が減少し、500ミリシーベルトではリンパ球が減少します。白血球もリンパ球も免疫をつかさどる重要な血液成分ですから、その重大性は想像がつくでしょう。
さらに、1000ミリシーベルトになると、急性放射線障害を起こして嘔吐したり、水晶体(眼球のレンズ部分)が混濁したりします。また、広島と長崎の被爆者のうち1000ミリシーベルトの放射線を浴びた人はガンになる確率が1・5倍にまで高まっていたことがわかっています。
そして、2000ミリシーベルトだと出血や脱毛が起きて、5パーセントの人が死亡、3000〜5000ミリシーベルトでは50パーセントの人が死亡、7000ミリシーベルト以上ではほぼ全員が死亡します。
ただし、現在のところ、それほど大量の放射線を受ける可能性があるのは、不適切な作業環境下に置かれた原発作業者に限られますから、一般の方はこのような急性障害を心配する必要はありません。
胎児や子どもへの被曝の影響についても触れておきましょう。
被曝の影響は細胞分裂の周期が短い細胞ほど受けやすいことから、受精から8週間までの細胞分裂が盛んな時期の胎児が100ミリシーベルト以上の被曝をすると、奇形や精神発達遅延などの影響が生じる可能性があります。
また、発ガン増加などの影響も見られるといわれ、特に問題となるのがヨウ素131による小児甲状腺ガンです。
チェルノブイリ原発事故では当初、被曝によって健康被害を受けた人は存在しないという国際原子力機関(IAEA)の発表がありました。しかし、事故から5年を経過したころから、通常だと100万人に1人も出ない小児甲状腺ガンが多く見られるようになります。事故から4年後の1990年には100万人あたり20人、92年にはそれが40人になり、94年には60人となったのです。
さらに、事故から20年後の調査では、チェルノブイリ周辺の汚染地域に住む500万人を超える一般住民で、子どもや若者の甲状腺ガンが5000例近くも発症しており、それらがチェルノブイリ原発から出たヨウ素131によるものであることは明白でした。
ただし、そのほかには、子どもにも大人にも被曝による明確な健康への影響はなく、また、遺伝性疾患や胎児異常の増加や、妊娠・出生率の異常もなかったといわれています。
テレビなどでコメントする放射線の専門家の多くは、このチェルノブイリでの調査結果を踏まえて、「放射能はそれほど怖くない。子どもの口に入れるものには注意した方がいいが、放射性ヨウ素131の半減期は短いので、それも気にしなくてよくなってくる」というように解説しています。
それは決して嘘ではありませんが、それとは別に51ページの表のような調査結果もあるのですから、やはり、なるべく被曝を避けるのが賢明だといえるでしょう。