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第4章 ゼオライトをさらに深く理解する
1.ゼオライトによる放射性物質の吸着作用
この章ではゼオライトの体内における放射性物質吸着の可能性をさらに深く追究するために、主に学術論文の記述を引用しながら、専門的な知識についてもわかりやすく紹介していきます。
1 ゼオライトによる放射性物質の吸着作用
東北大学におけるセシウム、ストロンチウムの吸着実験
海外の研究者の間では、ゼオライトが放射性物質を吸着することは議論の余地のない事実として認知されています。たとえば、1988年のナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス学会で発表された『ゼオライトを用いた核廃棄物の除去』(フリック・エーリードマン作成)という論文には、
「多くの研究で天然ゼオライトが放射性物質を取り込むことを報告している」
「ゼオライトは明らかに消化器から137Cs(セシウム137)、および90Sr(ストロンチウム90)を正常なプロセスで排泄できるので、体内への吸収を抑制することができる」
と書かれています。
ゼオライト生命体応用研究会の会長であり、日本におけるゼオライト研究の第一人者でもある佐藤一男氏によると、四半世紀前の日本でも、ゼオライトによる放射性物質の吸着作用に関する研究がなされているようです。
「1985年に東北大学が公表した研究では、ゼオライトが放射能汚染水においてセシウムとストロンチウムをほぼ100パーセント吸着できるとされています」(佐藤氏)
その実験では、チェルノブイリ原発事故で生じた汚染水の化学組成を参考にして模擬高汚染水を作成、セシウム137とストロンチウム85の濃度はそれぞれ1ppmと0・01ppmの2種類を用意しました。ppmとは濃度を表す単位であり、1ppmは0・0001パーセントを意味します。
結果からいうと、この実験では約5時間でセシウムが、約10時間でストロンチウムがほぼ100パーセント吸着されることがわかりました。
また、この実験では、汚染水中のセシウムやストロンチウムが、ゼオライトのイオン交換容量(イオン交換によって放射性物質を吸着する能力)の10パーセント以下の量であれば高い吸着力を発揮できること、ゼオライトの種類との組み合わせによって吸着度が変わること、そして、複数の種類のゼオライトを混合することでより効率よくセシウムとストロンチウムを吸着できることもわかっています。
ゼオライトによるプルトニウムの吸着
では、今回の福島第一原発の事故でも漏出の認められたプルトニウムの吸着についてはどうでしょうか。
スロバキア工科大学の『スロバキア産ゼオライトによるプルトニウムの吸収に関する研究』(ピーター・ルック、ニヴァ・パッセルトフ、マリア・フォルデソフ、パヴェル・デリンジャー作成)という論文によると、ゼオライトにはプルトニウムに対する強い吸着力が確認されているようです。以下、論文の一部の翻訳文をそのまま引用します。
プルトニウムの吸着を非常に強い酸性溶液下で実施する方法は多く存在するが、5〜6領域における吸着には多くの障害があり容易に実施できない。この研究では、天然および人工的に改良したクリノプチロライトおよびモルデナイトタイプのゼオライト顆粒(1・2〜2・5ミリ)を用いて、5・1〜8のプルトニウム溶液からの吸着を研究した。
その結果、天然ゼオライトでは5・8と7〜8の二つのピークで強い吸着がみられた。すべてのゼオライトで二つの吸着ピークがあるが、ゼオライトのタイプでピークが異なった。
人体のは約7・45の弱アルカリ性ですから、ゼオライトはちょうどその範囲内でプルトニウムを強く吸着することになります。
ただ、放射性物質の吸着性能に関しては、ゼオライトの種類が多いこともあり、本格的な研究はこれからといったところです。これについて同研究会の佐藤一男氏はこう言います。
「これまでの私の経験から、ゼオライトは放射性物質をほぼ100パーセント吸着できると考えています。ただし、それを仔細に検証する実験モデルを作るのに時間を費やすよりも、今は目の前にある原発の汚染水で実地に検証を進めた方がいいでしょう」
今回の原発事故では佐藤氏の言うような形で実際に検証が進められています。
東京電力は海の汚染を防ぐためにゼオライトを詰めた土のうを投入し、検証の結果、30時間のうちに、ゼオライト1キログラムあたりセシウム6グラムを吸着できたと発表しました。
今回の事故ではプルトニウムも漏出しているため、その汚染の除去に関しても今後、何らかのデータが発表される可能性があるでしょう。
空洞のサイズを変えることで、特定の放射性物質を吸着できる
天然のものと合成のものを合わせるとゼオライトには数百種類があり、さらに用途に応じてさまざまな分子構造のものを合成することができます。合成のものにはA型、X型、Y型などがあり、それぞれに吸着しやすい物質が異なっていたり、吸着力が高まる条件が異なっていたりします。
その種類の違いについて同研究会会長の佐藤氏は次のように説明します。
「合成のものでいうと放射性物質の吸着にはA型が適しています。放射性ヨウ素は陰イオンであり、天然ゼオライトではほとんど吸着できませんが、ゼオライトの骨格構造の中にカルシウムイオンを入れたカルシウム型ゼオライトであれば、その放射性ヨウ素もほぼ100パーセント吸着できます」
つまり、ゼオライトのイオン交換の優先順位は下記の通りとなります。
セシウム>ルビジウム>カリウム>アンモニウムイオン>バリウム>ストロンチウム>ナトリウム>カルシウム>鉄>アルミニウム>マグネシウム>リチウム
これを見ると、セシウムやストロンチウムなどの交換順位が比較的高いことがわかるでしょう。
さらに合成ゼオライトの場合、骨格構造が形作る籠状の空洞のサイズを変えることで、特定の放射性物質を選択的に吸着できます。
つまり、プルトニウムを吸着しやすいゼオライト、セシウムを吸着しやすいゼオライト、ストロンチウムを吸着しやすいゼオライト……というように、用途別のゼオライトを作り出すことができるのです。
それらのゼオライトをどう組み合わせると最大の効果を引き出せるのかという点に関しては、まだまだ研究の余地があるでしょう。ただ、どの種類のゼオライトが放射性物質を効率よく吸着できるかはわかっているので、研究のさらなる進展を待たずとも、放射能対策の一助として実用に移すことはできるといえます。