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第2章 被曝を防ぐために今、始められること
放射性物質の種類別・内部被曝のパターン
内部被曝の問題について、放射性物質の種類別に説明しておきます。
まず、ヨウ素131について。東京都金町浄水場の水道水から、乳児の飲用の暫定基準値を超える1リットルあたり210ベクレルのヨウ素131が検出されたことが大きく報じられました。これが問題視されたのはチェルノブイリで見られたように小児甲状腺ガンに直結するからです。
甲状腺という器官はヨウ素を集める性質があるため、ヨウ素131が体内に入ってくると甲状腺に蓄積され、そこで放射線を放ちます。
ヨウ素131の物理学的半減期は8・1日ですから、その影響は長くは続きませんが、乳児は細胞分裂が盛んなので、甲状腺の細胞において遺伝子の損傷が深刻なレベルに達することがあります。その結果、甲状腺ガンの発症へとつながるのです。
一方、セシウム137の場合は物理学的半減期が30・1年と非常に長いのですが、ヨウ素131のように1か所に集まらず、筋肉など全身に分散されて蓄積されるので、それほど恐れることはないといわれています。とはいえ、大量に体内に入ると健康被害が生じるのは当然のことです。
次にストロンチウム90ですが、これは少しやっかいです。ストロンチウム90は体内でカルシウムに似た動きをするため骨に蓄積しやすく、いったん骨に蓄積されてしまうと体外へ排出されにくくなります。生物学的半減期が物理学的半減期よりも長いのはそのためです。
さらに問題なのがプルトニウム239です。
プルトニウム239の放射線はアルファ線なので紙でも防げます。そういうと微弱な放射線であるように思えますが、実際にはベータ線の20倍もの影響力があります。ICRPの勧告によると、肺に取り込んでしまった場合にはヨウ素131の1万6000倍もの悪影響があるとされています。
このことから、プルトニウム239は放射性物質の中で最悪の存在だといわれているのです。
プルトニウム239が発するアルファ線は半径40マイクロメートルしか飛びませんが、その短い距離の間で高いレベルのエネルギーを放出するため、内部被曝の場合は接している細胞に対してピンポイントで強いダメージを与えます。つまり、修復困難な形で遺伝子を損傷させる可能性が高いのです。
しかも、実効半減期が197年であることを考えるなら、いったん体内へ入ったプルトニウム239は蓄積された箇所において、その人が死ぬまで放射線を出し続けることになります。その結果、その部位のガン化を促進すると考えられます。
プルトニウム239を口から摂取した場合には、そのほとんどはそのまま体外へ排出され、0・05パーセント程度が吸収されて骨と肝臓へ蓄積されます。一方、吸気で吸い込んだ場合は、約4分の1が肺に沈着して、そのまま肺に蓄積されるか、胸のリンパ節や肝臓、骨などに移動してそこに蓄積します。
つまり、肺から入ったときの方が問題は大きくなるのです。
これに関しては、大気圏内核実験を行った数十年後に世界中で肺ガンが増えたという報告もあり、決して看過できないところです。
なお、プルトニウム239の粒子は重いので飛散しないといわれていますが、チェルノブイリ原発事故で放出されたプルトニウム239が日本の雨から微量ながら検出されたこともあり、まったく飛ばないというわけではありません。
今回の福島第一原発の事故でも原発敷地内の土壌からプルトニウム239が検出されています。今後の飛散が心配されるところです。